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ヘルパー体験記
『星の牧場』に風がきた
 風になった私
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牧場へ、いらっしゃい!

『星の牧場』に風がきた

風になった私

 私が仕事を辞め『風』になり、初めて北海道を訪れたのは、1990年の事です。当時、北海道には素晴らしい自然が残っていました。そして、YH、とほ民宿、ライダーハウス、キャンプ場には、素晴らしい旅人たちが旅を語り合っていました。釧路まきばYHに初めて泊ったのも、ちょうどその頃でした。

 初めて泊った釧路まきばYHの印象は、あまり良いものではありませんでした。観光案内もツアーも無く、YHらしくないYHと言う印象を受けました。そして、ホステラーの多くはグループで、初めてYHに泊ったといった人たちばかりで、見知らぬ人同志が旅の会話に盛り上がると言う事もありませんでした。
 しかし、ペアレントさんのミーティングには、いたく感動してしまった覚えがあります。ペアレントさんはロマンチックに、釧路という所を説明してくれたのです。それは通り一遍の観光案内などより、遥かに興味深い話でした。

「寒い冬の夜には、息が凍ります。きらきらと息が凍って布団に輝きます。それが釧路という所です・・・・。夏は殆ど、ありません。二十度を越える事は年間を通して殆どないのです。だから、一週間しか夏がやってこない。それが釧路という所です。釧路とはそんな所です・・・・」

 通り一遍の観光案内なら観光ガイドに幾らでも書いてあります。でも釧路まきばYHのペアレントさんの話は、ちょっと違っていました。私は、ペアレントさんの話にのめり込んでいってしまいました。

「皆さんは『星の牧場』という童話を知っていますか? この釧路まきばYHは星の牧場という童話からとって名付けたのです。ここに、アンコロンという楽器が置いてあります。これは星の牧場に登場するインドネシアの楽器です。星の牧場という童話は・・・・」

記憶を失った青年がいました。
悲しい事にあって記憶をなくしたのでした。
そんな彼は山にさまよいジプシーたちに出会いました。
青年は彼らと仲よくなり一緒に暮らしました。
ジプシーたちは暖かく向い入れてくれ、
なんとか青年の記憶を戻そうと一生懸命努力してくれました。
しかし青年は、
記憶を取り戻すとジプシーたちに別れさえも告げずに
山を捨て里に帰ってしまったのです。

 星の牧場と言う童話はこんな御話しです。

 山は北海道、里は都会、記憶は現実、青年を旅人にあてはめてみれば、星の牧場という童話は、現実を忘れて北海道をさまよう旅人の御話しなのかもしれません。ひょっとしたら、この青年は自分自身のことかもしれないと思えてさえきます。そんな感傷に浸りながら、私はこう思いました。釧路まきばYHで、いや、星の牧場YHで、ヘルパーをするのもいいかもしれないと・・・・。

 けれど、元来、私は勝手気侭な一人旅の旅人でしたから、まだ本気でヘルパーをしようなどとは、考えていませんでした。何しろ当時の私ときたら、YHに泊るより、キャンプや野宿や駅寝やホテルに泊ったりが多かった人間でしたから。

 時の流れは速いものです。それから四年たち、1993年の春を迎えました。私には、1000人をこえる旅の友人たちができていましたが、かわりに旅人のゴタゴタの中に引き込まれるような存在になっていました。

「これは本末転倒だ!」

と、私は思いました。

 人は何故、旅に出るのでしょうか?
 それは『日常のゴタゴタから逃れるためです。
 それが旅人の世界にまでゴタゴタが出てはおしまいです。

 しかし、いくら旅人といっても、人間である事には違いないのですから、つきあいが多くなればゴタゴタも多くなるのは、やむえない事かもしれません。しかし、そんなゴタゴタは『風のたより』にだけは持ち込みたくないものです。
 『風のたより』は私と土井君が、膨大な手間暇とポケットマネーはたいて作り上げたものです。好きでやっている事と言ってしまえばそれまでですが、無理してでも『風のたより』を製作する理由は、すこしでも日常のゴタゴタから無縁の世界を作りあげるためです。
旅の世界で味わった、親切や、心温まる出来事や、忘れる事のできない感動を、ただの夢にしたくないためです。

「夢は朝目覚めてしまうと殆ど全てを忘れてしまいますが、旅先の感動もそうです。夢のようなものです(中略)。けれど、多くの旅人たちにとって、夢は夢でしかありません。旅人は旅が終ったとたん、夢から覚めるものです。そして現実という日常に、また夢をみる日がくるまで忙殺されていくのです・・・・。
 考えてみれば夢は星みたいなものです。朝がくれば星は消えてしまいます。夢も消えてしまいます。でも消えてしまった星は確かにそこにあるのです。夢もまた確かにそこにあるのです。世の多くの人々は夢を架空の出来事と考えていますが、とんでもない間違いです。星が消えていくのは太陽の光りが強すぎるからで、けして星が無くなるわけではありません。夢もそうです。目覚めると夢が消えてしまうのは現実という光りが強すぎるからで、けして夢が消えてしまってるわけではありません。夢は確かにそこにあるのです。私はそう思ってます。
 思えば私は夢の中の人間です。私と同世代の友は、いつのまにか、もう夢を見る事のない世界にいます。北海道で同じ夢をみれた者もいつしか夢を見る事のない世界にいってしまう事でしょうが、願わくば昔見た夢の記憶をほんのちょっぴり思いだしてほしいと思っています・・・・。(「風のたより」2号より)」


 「風のたより」2号に載せた文です。旅先で出会った感動を旅先だけの事件に終わらせたくない。夢を夢のまま、目覚めとともに消していくのは、あまりに惜しい。だから『風のたより』を作り続けました。
 しかし、膨大な手間暇をかけて『風のたより』を製作する私たちは忙しすぎました。当然のことながら、私や土井君などにも一つや二つのミスも出てきます。また、勘違いに類する批判や、見当違いのいいがかりまで出てきます。そんなゴタゴタの中に引き込まれるようになってしまった時、
「これは本末転倒だ!」
と叫びたい気持ちになり、東京を飛び出したのです。

 ああ、嫌だ嫌だ!
 『風のたより』なんか辞めた!
 土井君、後を頼んだよ!
 俺は旅に出るからね!
 え?
 どこって?
 そうだな、北海道にでも行くかな!
 そうだ、どうせ行くなら三ヵ月くらい放浪するかな・・・・。
よし、決めた、決めた、決めた、決めた、決めたぞ!
 俺は北海道に行くぞ!

 と、言う訳で北海道に向った私でした。『風のたより』のゴタゴタの全てを土井君に押しつけて、私は北海道にスタコラサッサと逃げてしまったのです。しかし、この逃避行、あらかじめ準備されたものでは無かったので、私の財布には、何も入って無かったのでした。

 まあいいや、山小屋か民宿で働けばいいさ。
 YHでヘルパーをするのもいいかもしれない。
 そうだ!
 釧路まきばYHに行ってみよう!

 行けば、そこにはきっと、『旅』という夢の世界があるに違いない。釧路まきばYHでヘルパーをする事によって、『風のたより』の世界より、もっと素晴らしい世界が開けるかもしれない。そんな安易な考えが、私の脳裏をかすめた時、私はすでに急行八甲田に乗っていたのでした。

 後になって、多くの人たちから
「どうして釧路まきばYHを選んだの?」
と言う質問をされました。それほど私と釧路まきばYHのイメージは掛け離れていたという事なのでしょう。実際、私には、ボロボロの山小屋や、崩壊寸前の民宿や、気違いYHか、誰も来ないような壁地のYHの方が、似合います。釧路という大都市の、しかも綺麗なYHなんて、似合わない事は、誰よりも自分が一番知っている事です。

 YHにもいろいろあります。
 旅人に人気のあるYH。
 ヘルパーをしやすいYH。

 しかし、この『旅人に人気のあるYH』と、『ヘルパーをしやすいYH』とは、必ずしも一致しません。人気YHほどヘルパーの仕事は辛いものになりますし、人の来ないYHほどヘルパーは楽できるわけです。また、ペアレントが口出ししないYHは、それだけヘルパーが楽できるわけですし、ヘルパーの数が多いYHは、ヘルパーに対する激務はないと言う事です。まきばYHは、どういうYHなんでしょうか?
 実は、まきばYHでは数々のヘルパーが首になっている事実を、私は知っていました。仕事がきついという噂も多くの人たちから聞いていました。ヘルパーにとって、もっと楽で、楽しいYHが他にある事も聞いて知っていました。お金をたくさんくれる所も知っていました。
「ぜひ、うちのYHでヘルパーをやってくれ」
と、何年も前から言われ続けてきたYHもありました。でも、私は、まきばYHを選んでしまいました。そのわけは、まきばYHに未知のものを感じていたからです。

 私に似合わないYHだから、
 私とは住む世界の違う旅人が泊りにくる宿だから、
 (ごく普通の旅人と云う意味)
 常連客に私の知合いが誰一人泊ることのないYHだったから、
 『風のたより』関係者が泊りに来ないYHだったから、
 全く未知の人と知合いになれるからでした。

 実際、まきばYHでヘルパーをする事は、『風のたより』関係者には一切秘密にしました。どうせヘルパーをするのなら、全く知らない所で、全く面識の無いペアレントさんの元で、全く一から仕事を教えていただきたい。全く初対面の旅人たちと旅の話でも語りたい・・・・。
 旅とは世俗を離れて未知(夢)の世界をさまよう事です。私は旅をしたかった。ヘルパーをしながら旅をしたかったのです。ヘルパーという旅をしたかったのです。だから釧路まきばYHにやってきたのです。
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