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ヘルパー体験記
『星の牧場』に風がきた

牧場へ、いらっしゃい!
 手紙
  ヒールとベビーフェイス
 再建
 無垢(むく)の木
 ナホちゃんのオカリナ
 マキロン

牧場へ、いらっしゃい!

ナホちゃんのオカリナ

 ☆☆君が釧路まきばYHを辞め、かわりに私がヘルパーとして到着したのは、1994年の8月も半ば過ぎの頃です。仲間のヘルパーとうまくやっていけるだろうか? ミスタースポック大先生と、うまくいかなかった仲間たちとうまくやっていけるだろうか? 来なくていい奴が来たと思っていないだろうか? そういう不安と緊張の中で、私は星の牧場YHにやってきました。

「こんちわ〜」

 心臓をドキドキさせながらYHの中に入ると、そこには、かわいらしい女の子ヘルパーがいました。古谷奈穂子さん(以下、ナホちゃん)です。

「風さんですか?」
「はい」
「・・・・」
「・・・・」

 やはりドキドキします。今まで、コウちゃん・ナホちゃん・寺さんの3人でやってきたところに、後からノコノコやってきたのですからね。私はジャマ者かもしれないし、厄介者かもしれない・・・・。
 どうしよう?
 このまま途方にくれてしまってはいけないぞ。落ちつけ落ちつけ。
 ちょっとばかりあせってきた私は、深呼吸し、心を静めるためにオカリナを取り出し、『となりのトトロ』を吹きました。

 森の奥で生まれた風が〜
 原っぱにひとり立つ楡の木
 フワリかすめ、やって来た
 あれは風の通り道〜♪

 すると、さっきまでムスッとしていたナホちゃんが、目を輝かせてやってきました。

「ねえねえ、それ何ですか?」
「オカリナだよ」
「ふ〜ん、ちょっと貸してもらえます?」
「どうぞ」

 ピーッ、ピッピッーッ・・・・。

「あれ? うまく音がでないなあ〜」
「これはね、こう吹くんだよ」

 森の奥で生まれた風が〜
 見えない手さしのべて麦の穂、
 フワリかすめ、あなたの髪を
 ゆらして通りすぎていく〜♪
 遥かな地、旅ゆく風 道しるべ
 ひとりゆく あなたにおくる 髪のかざり〜♪

 それからの毎日というものは、星の牧場YHにオカリナの音色がこだまするようになりました。私とナホちゃんのオカリナです。音楽好きのナホちゃんは、それはもう楽しそうにオカリナを吹きます。私も負けずにオカリナの大合唱です。
 隣のトトロ、ラピュタ、風の谷のナウシカ、花祭り、コンドルは飛んでいく、スカボロフェア、小さな恋のメロディ、なごり雪、22歳の別れ、切手のない贈り物、上を向いて歩こう、サボテンの花・・・・。オカリナの音色は、YHの館内に響きます。

 音楽は、人の心の緊張をアッという間に解きほぐします。無用なストレスを消してしまいます。私は、この小さな小さなオカリナにずいぶん助けられました。例えば、こんなことがありました。

 受け付けでオカリナを吹いていると、無愛想な御客さんが、やってきました。私は、ヤバイと思いながら
「何か用ですか?」
と聞きますと、その人は
「何でもないです、オカリナを続けて下さい」
と言って受付け前の階段に座り込みました。不審に思いながらオカリナを続けますと、その無愛想な御客さんは、私にリクエストしてきました。
 70歳のおばあちゃんが、
「今度、私のお琴と一緒に演奏しましょう」
と言ってくれたこともありました。音楽は世代をこえるんですね。70歳のおばあちゃんと音楽の話で盛り上がれるなんて、ちょっと素敵なことだと思います。
 また、小さな子供たちや、近所の子供たちとも仲良くなれました。子供たちは、好奇心がいっぱいです。その点、オカリナという陶器の楽器は、音といい形といい、大いに子供たちの好奇心を満たします。そして、
「くれよんシンちゃん吹いて!」
とか
「セーラームーンがいい!」
と盛んにリクエストしてきます。

 オカリナを習いたいという人もいました。そんな人とは、一緒にオカリナを練習しました。私は、御客さんと一緒に練習する新しいオカリナを2つばかり釧路の楽器屋で買い入れました。2万円の出費です。ちょっと痛い出費でしたが、そのかわりに3種類のオカリナの音色が、星の牧場YHに響くことになりました。

 そうなると、もう一人のヘルパー・コウちゃんも黙っていません。コウちゃんもオカリナや縦笛の練習を始めます。星の牧場YHは、どんどん音楽に占領されていきます。すると、わずらわしい人間関係や、つまらない悩みや、心の病いが消えていくから不思議です。いや〜、音楽って本当にいいですね。

 音楽は、人間のもつ第二の言語です。キザなはやり言葉や、歯のうくお世辞なんかより、音楽の方がよほど相手の心を捉らえることがあります。今回、嫌というほど、それを感じてしまいました。そして、それを私に教えてくれたのがナホちゃんです。私は、星の牧場YHでナホちゃんの前で、何気なくオカリナを吹いてからというもの、すっかりオカリナにハマッてしまいました。ナホちゃんには、感謝しなければいけませんね。
 おかげで、私は大勢の御客さんたちと、オカリナで御話をすることができました。相手が、どこの誰だか、何歳で何の仕事をしているのか話をしなくともオカリナという楽器で心をふれあうことができました。

 ところでナホちゃんは、音楽の大好きな陽気な女の子です。得意技は鍵盤で、ピアノやキーボードを自由にひきこなせます。腕もなかなかなもので、星の牧場YHにナホちゃんのエレクトーンの音色が響いたときは、「さすが!」と感心してしまいました。「ナホちゃん、厨房の仕事やめて、ミーティングで演奏しなよ!」と言いたくなるくらいです。
 でも、ナホちゃんは、ヘルパー期間中、なぜかエレクトーンに見向きもせずに、オカリナに夢中になっていました。暇さえあればピーヒャラ、ピーヒャラ。いったいオカリナのどこに魅力があるのでしょうか? どうしてナホちゃんは、一生懸命オカリナを練習していたのでしょうか? その理由は、しばらくしてからわかりました。

「風さん、風さん」
「なに?」
「今度、ミーティングで合奏しません? コウちゃんも誘ってさ」
「え? ミーティングでやるの?」
「うん」
「御客さんの前でやるの?」
「うん」
「恥かしいなあ〜」
「なに言ってるんですか、風さんだってずいぶん恥かしいことをやってるじゃないですか」
「う〜ん・・・・」

 そうなんです。私は、ずいぶん恥かしいことをしていました。寝グセで爆発した頭のまま1日すごしたり、何日も同じ服を着ていたり、社会の窓が開きっぱなしだったり、暴力客と喧嘩寸前になってしまったり、ダジャレで御客さんをカチンカチンに凍らせたり、もう恥かしいことを言ったらきりがないです。
 なのに、どういうわけか御客さんの前で演奏することは、恥かしかった。『風のたより』で、さんざん歌って踊ってドンチャン騒ぎをしているくせに、ミーティングでオカリナを吹くことは、とても恥かしかった・・・・。

「ねえ、やりましょうよ」
「う〜ん」
「やりましょうよ、風さん!」

 わかった。わかったよ。やればいいんでしょ!
 え〜い、こうなりゃヤケだ。
 どうとでもなりやがれ。
 そうだ!
 どうせやるなら、派手にやってやれい!
 てなわけで、私たちは、次のような作戦計画をたてました。

★作戦その1
 8時30分、御客さんにミーティングに集るように集合をかける。
 しつこいくらいに放送をし、
 そのうえに御客さんの部屋に呼びかける。

★作戦その2
 ミーティングルームに集った御客さんをしばらくほっておく。「呼び出しておいて、ヘルパーがいないのは何故だ?」というざわめきが出てくるまで何もしない。御客さんの中には怒り出す者も出てき、「責任者でてこい」と怒鳴り出す者もいるかもしれない。

★作戦その3
 会場が騒然としてきた時に、突然、私・コウちゃん・ナホちゃんが、受け付けからオカリナや縦笛を持って出現する。そして、『隣のトトロ』の曲を演奏しながら場内乱入する。
 この時、御客さんたちは「何だ? どうしたんだ? 何がおこったんだ?」とボーゼンとなるに違いない。しかし、そんなこと御構いなしに我々は、御客さんの周りをグルグル回りながらピーヒャラ、ピーヒャラ演奏を続ける。

★作戦その4
 そして、何事もなかったように御客さんの前から消えていく。御客さんたちは、「あれは、いったい何だったんだろうか?」とボーゼンとしたまま、ミーティングルームに残されてしまう。その時、星の牧場YHには、ヒューッと冷たい風が吹くにちがいない。

 結果は、大成功でした。私たちの演奏は、みごとに作戦の通りになり、星の牧場YHには、ヒューッと冷たい風が吹きましたとサ。めでたし、めでたし・・・・。
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