旧作 旧作・高原へいらっしゃい 
(昭和50年度・山田太一作品) 

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語録&解説  

第6話 記者

「まず、お勘定は払わせて下さい」
「とんでもございません。わざわざおこし頂いたのですから」
「記事にできないんです」
「お時間をいただいたのです。お気になさらないでください」
「いや、その、記事にしたいんです」
「は?」
「できれば、カラーグラビアを2〜3ページさいて、このホテルをパーっと宣伝したいんです」
「仕方がありません。力がないのに無理を致しました」
「一生懸命でしたね」
「はい」
「支配人が従業員全員が、あんな芝居をして、なんとかもりたてようとしていました。いや〜あれには参りました」
「こんなこともうしあげるのは何ですが、みんな良くやってくれたと思います」

解説

 団体をとらず、あくまでも個人のお客さまだけをターゲットにするために女性週刊誌の取材を受けるために記者を呼び込み、いろいろヤラセの芝居をしたのですが、見事に失敗してしまいました。嘘の宣伝をしようとしても、うまくいくものではありませんが、ホテルを成功させたいという熱意だけは嘘がなかった。それは記者に伝わりました。嘘を通して、ホントが伝わったのです。言葉や芝居は嘘でも、熱意に嘘が無ければ、伝わるものがあるのかもしれません。そのために記者さえも、嘘を棄てて本当をさらけ出すのでした。