語録&解説
第9話 引き抜きをされているコック長と、それを応援する面川清次
「どうだろう、みんな賛成してくれないか」 「しかし、10日でいいんでしょうね。本当に10日で帰ってくるんでしょうね」 「私は10日でなくていいと思っている。20日でも、ひと月でもいい、思う存分力をふるって、このホテルが少しでも懐かしいと思っていただいたら、帰ってきていただこうじゃないか。どうだいみんな、賛成してくれるかい?」 「賛成です」 「高間さん、私は、高間さんを檜舞台に出したいんです。高間さんが嫌でも出てもらいたいんです」 「ありがとう、10日間だけ、やらせてもらう。その間、みんなで亥太郎をカバーしてもらいたい」 「だいじょうぶです」 「私はこのホテルが好きだ。みんなが好きだ。だから帰ってくる。10日できっと帰ってくる」
解説
コック長が引き抜かれたら、ホテルの存続にかかわります。なのに面川清次(田宮二郎)は、コック長を檜舞台に出したいといい、「10日でなくていいと思っている。20日でも、ひと月でもいい、思う存分力をふるって、このホテルが少しでも懐かしいと思っていただいたら、帰ってきていただこうじゃないか」と言いました。ここに面川の人望が見え隠れします。面川は、給料や待遇で人を使っていません。その人のやる気を、たくみに引き出して、それのみでスタッフを動かしています。だからこのホテルが少しでも懐かしいと思っていただいたら、帰ってきていただこうじゃないかと言えるわけです。このホテルには、金や待遇以外のものがあって、その魅力こそ、ホテルの繁栄を気づくのだと言うことを面川は知っていたのでしょう。私も、宿泊業を営む者として、この面川の決断の中に秘められた心中がよく分かります。
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