旧作 旧作・高原へいらっしゃい 
(昭和50年度・山田太一作品) 

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語録&解説  

第14話 原田画伯を怒らせてしまった後で

「大貫君」
「何ですか」
「いつか君がいってたように、やはり僕は小細工がすぎるんだろうか?」
「そんなことありませんよ、毅然としてなかなか良い感じでした」
「しかし先生を怒らせてしまった」
「あなたのせいではありませんよ、良かれと思ってしたことですよ。怒るのは向こうの勝手ですよ。こっちは先方の事情なんか知っちゃいないんですからね」

解説

 面川清次(田宮二郎)は、何かと小細工する癖がありました。お客さまに対して、夢を売るために、ちょっとした芝居や仕掛けを用意する癖があったのですが、今回は、そういう小細工は最後の最後までしませんでした。それを画伯がいたく気に入ってくれて、リピーターになる約束をしてくれたのですが、最後のところで小細工をやってしまい、画伯を怒らせてしまいました。

 小細工。これは、長年客商売をやっていると、どうしても身に付いてしまう癖のようなものです。お客さまに感動感激してもらいたいために、様々な仕掛けを用意する癖がついてしまうのですが、そのへんを実直で誠実な大貫が批判したことがありました。大貫徹夫(前田吟)は、どちらかというと不器用なタイプで、小細工はおろか嘘も満足につけない人間です。そのために高原の甘いムードを出す事が、どうしてもできないわけですが、かえって、その方を好まれるお客さまもいらっしゃいます。嘘くさくないからです。

 例えば、ディズニーランド。ディズニーランドには、ディズニーの愉快なムードが漂っていますし、そこで働いている人々は、掃除係に至るまで徹底したサービスを行っていますが、これなども壮大な小細工と言えましょう。しかし、この壮大な小細工に嘘くささを感じる人も希にいるのです。どの従業員も同じような笑顔で働いていて、決してマニュアルからはみ出ることをしないディズニーランドのシステムに「嘘」をかぎとる人もいます。

 原田画伯は、嘘が嫌いな人でした。だから、いつも笑顔で美人の冬子ちゃん(由美かおる)よりも、ブスッとしてばかりいるミッちゃん(池波志乃)を「いいねえ」と賛美してましたし、信州弁丸出しで、ろくすっぽ接客ができない村田さん(常田富士男)とも意気投合しました。それに村田さんとは、一緒にボクシングの試合をみて、興奮して殴り合い、ノックアウトされましたが、少しも恨みに思ったりしませんでした。けれど、そんな原田画伯も、面川の、ほんの些細な小細工には激怒したのです。

 ホテルやペンションなどの宿泊施設は、イメージを売る所です。だから様々な小細工で、ディズニーランドのようにイメージを作っていくわけですが、それを嫌うお客さまもいらっしゃるから難しいところです。小細工もすぎると嘘くさくなるし、冷たい感じもしてきます。人間らしさも感じられなくなるのです。だから「素朴さ」を売りにしている民宿やアットホームを売りにしているペンションやユースホステルといった施設もあるのですが、それだって、行き過ぎれば「客商売として失格」という烙印を押されます。このへんの駆け引きが難しいのです。