語録&解説
第15話 東京で働く3人
「靖雄さん、史郎さん、一人でやっていきます。お前、あんなこと書いてあるけれど、ホテル帰りたくなったんだろう」 「いえ、そんな・・・・」 「嘘つけ、お前は弱虫なんだよ。ホテルに帰りたくて帰りたくてうじうじしてるんだよ」 「どうなんだよ」 「帰りたいです。ホテル帰りたいです。だども、おら、ホテル帰りたいと思うのは、俺が弱虫だからとか、田舎者だとかではないんです。俺、ホテル飛び出して東京きちまって 生まれて初めて人生ちゅうもんを考えてみたんです」 「・・・・」 「生き甲斐ちゅうか、うまく言えないけれど、疲れ方が、ホテルで働いたときと違うんです」 「・・・・」 「すがすがしさが、ねえんです」 「・・・・」 「何故かって、考えてみたんですけれど」 「(史郎)俺はそんなこと無いね。働けば疲れるんだよ」 「(靖雄)史郎黙れよ。考えてみたけれど何だ?」 「何故かって、考えてみたんですけれど、働いているときの、でっかい目標が無いんだと思うんです。今、とにかく喰うために働くだけで・・・・」 「あたりまえでい、あめえんだ七郎は!」 「いや、でも、ホテルにいたときは、ホテル成功させようっていう、でっけえ目標があったでしょう。みんなで力を合わせてやっていこうと言ったじゃないですか。史郎さんだって、靖雄さんだって、はじめ東京から来たときは、そういう気持ちがあったんでしょう」 「・・・・」 「ホテル成功させましょう。働いて働いてホテル成功させましょう。こんな素晴らしい話は、もう無いと思うんですよ」 「・・・・」 「俺は、もう後悔しちまった」 「・・・・」 「大貫さんが、君たちは60歳くらいになって、きっと後悔するって言ったけれど・・・・」 「・・・・」 「・・・・俺は、もう後悔しちまった」
解説
全編を通じて、ほとんどセリフの無い杉山七郎(尾藤イサオ)が、大演説するのがこの回です。ふだんは「ああ」とか「うう」くらいしか言わない、どもりがちの優柔不断な男が、ここぞとばかりに自分の考えを述べるわけですが、このシーンも『高原へいらっしゃい』のクライマックスと言ってもいいかもしれません。
小笠原史朗(古今亭八朝)も高村靖雄(潮哲也)も、日頃は七郎を馬鹿にしていたりするのですが、この時ばかりは、根が正直で素直な七郎の言葉におしまくられました。それもそのはずです。七郎は「王様は裸だ」と言ったのですから。史朗も靖雄も同じような思いをもっていたから、よけいに七郎の言葉にずしっときたのです。
第15話 北上冬子と面川清次「冬子ちゃんかい」 「はい、どうしてわかりました?」 「長い付き合いじゃないか、足音でわかるよ」 「足音、たてませんでした」 「気配かな」 「気配?」 「似たもの同士の気配かな」 「マネージャーと私がですか?」 「僕は女々しくて、窓から外を見たりするけれど、冬子ちゃんは、いつも明るくていいね」 「でも、似たもの同士ですか?」
「違う?」 「この高原以外のことは、全部忘れてしまえれぱいいなって思うことがあるんです」 「若いから直ぐ忘れちゃうさ」 「そうですね、忘れっぽい方なんですけれど」 「なかなかね」 「やっぱり、似たもの同士ですか?」
解説
面川清次(田宮二郎)は、ホテル界から追放され、アル中になり、妻から愛想尽かされたという過去があり、その過去故に苦しんでいます。そして、北上冬子(由美かおる)も、昔の恋人のことで記憶を消したいと思っているわけです。嫌な過去を持っている2人を面川は、似たもの同士と表現しています。そしてお互い、忘れるのに苦労しているのも似たもの同士と表現しています。
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