ブルーベリー 旅に出たい人へ
  旅人的生活の方法

自分自身をコントロールしよう

 潜在意識とは、いったい何なのでしょうか? それは、脳と神経系からできている一種の仕組みであることが解明されています。つまり潜在意識とは、思考回路ではなく、人間を動かすシステムのようなものだと言ってもいいかもしれません。
 例えばパソコンのスイッチを押すと、自動的にパソコンのソフトが立ち上がりますが、この自動的に立ち上がるシステムが仕組みであり、私たちの潜在意識は、そのようなシステムのような働きをするようになっていると言うのです。
 しかも、その潜在意識とやらは、どんな高性能のパソコンよりも精巧にできており、しかも、その仕組みには、意志も人格もありません。自分自身が、幸せを目標に設定すれば、幸せをつかむように自動的に働きはじめるし、世の中をネガティブにとらえるように設定すれば、自分自身が悪い方に働くようになります。

 ここが潜在意識の恐ろしいところで、潜在意識には人格がありません。パソコンのスイッチと同じであって、情け容赦なく、押せばスイッチが入ってしまうシステムであるわけです。そして、幸せというスイッチを押せば、幸せになるし、不幸というスイッチを押せば不幸になるように作用するのです。
 また、成功するという思いこみのスイッチを押せば、成功の仕組み(システム)が作動しますし、失敗するかもしれないという思いこみのスイッチを押せば、失敗するためのシステムが自動的に作用します。そして、これは自分の意志と関係なく働きだします。

 例えば、走ろうと思った時、たいていの人間は自動的に走ってしまいます。足をあげるために、筋肉を収縮し・・・・などという命令を一々出したりはしません。意識せずに足を動かし、なに気なく走ってしまいます。つまり、自動的なシステム、潜在意識が働いて走ることができるわけです。
 つまり、人間の生活の大部分は、この潜在意識にたよって生きているのであり、思考回路の役割など、ほんの一部にすぎません。ほとんどは、意志をもたない潜在意識が人間を走らせ、眠らせ、食物を消化させ、成功させ、失敗させるのです。
 私たちは、自分のことは、自分の意志によって決めていると思いがちですが、それは大きな過信かもしれません。ほとんどのことは潜在意識という人格も思考回路も決定回路もたない下部意識が決めているかもしれないのです。もし、そうだとすると、私たちは、知らず知らずのうちに「人格をもたない意識」に操られている可能性が高いということになります。

 私も、もうすぐ40歳になります。40年の人生を生きていると、不思議なことに気がつきます。学歴や知能指数と成功や幸せと、ほとんど無関係なことや、真面目であることや正直であることも、幸せや成功とあまり関係がなかったりすること。
 例えば、真面目で正直な人が、コツコツと会社で働いて実績をあげていたにもかかわらず、一番先にリストラされてしまったり、奥さんに逃げられてしまったりする。逆に旅ばかりしていて、世間から放蕩息子と言われていた男が、いつの間にか大勢の友人にめぐまれていて、ペンションを開業して、毎日、お客さんと楽しくやっていたりする。
 つまり、真面目で誠実でコツコツと会社のために働いてきた人間が酷いめにあって、遊んでばかりいた人間が、自分の城をもち、楽しそうな毎日をおくっている。しかも友人が多い。これは大変不公平なことです。では、この不公平さは、どこからきているのでしょうか?
 もし、努力や正直や勤勉や意志において問題がないとすれば、何がそのような不公平をもたらすのでしょうか? ひょっとしたら人格をもたないとわれている潜在意識が、自分の幸せや成功を邪魔しているのではないでしょうか?
 潜在意識と言っても、私はフロイトの研究家でもありませんし、信者でもありません。単なる旅人です。だから旅人として潜在意識について語りたいと思います。

 さて、旅のお話です。

 私の友人Aは、「北海道に旅したい」と思いました。でも、休暇はとれないし、金もないとあきらめました。そうなると絶対に北海道に行けなくなります。不思議ですけれど、行けなくなってしまう。行きたいなあ・・・・と思うと必ず仕事が忙しくなり、お金も足りなくなるのです。
 ところが、その友人と同じ会社の同じ部署に働いている私の友人Bは、毎年3回も北海道を旅しているのです。両方とも同期で両方とも独身です。そして、両方とも同じくらい忙しくて、同じくらいの給料とボーナスをもらっています。なのに片方は、北海道に行きたくてもいけないでいる。片方は、年に3回も北海道に行って旅をエンジョイしています。この差は何なのでしょうか?
 両方とも北海道に行けきたいという気持ちは同じなのです。なのに片方が行けて、片方が行けない理由は、潜在意識の差にあるかもしれません。つまり
「私は必ず北海道に行ける」
と思うか
「私は今年も北海道に行けないかもしれない」
と思うかの差であるかもしれないのです。

「そんな馬鹿な」

と思わない方がいいです。前にも言いましたが、私たちは、自分のことは、自分の意志によって決めていると思いがちですが、それは過信です。ほとんどのことは潜在意識という人格をもたない下部意識が決めているのです。だとすると、私たちは、知らず知らずのうちに「人格をもたない意識」に操られている可能性が高いのです。

 では、その潜在意識のスイッチを押しているのは誰かというと、私たちの意識です。つまり「私は必ず北海道に行ける」という意識が、潜在意識に働きかけて必ず北海道に行けるように体をコントロールしはじめるわけです。
 そして、胃袋から肝臓から肺や心臓や血管や大脳や小脳にいたるまで北海道に行けるように働きかけるようになり、胃液の量から血圧の変化まで北海道に反応しだし、本当に北海道に行けるようになってしまうわけです。しかも、それは無意識のうちに決まってしまいます。
 ここで「そんな馬鹿な」と思ったら、もうおしまいです。そこで潜在意識に「そんな馬鹿な」というネガティブな心理をうえつけることになり、失敗の種をまくことになるのです。潜在意識の力を発揮させるには、潜在意識の力を信じなければなりません。そして、意識だけで全てをコントロールできるという人間の思い上がりを棄てる必要があります。
 ここでネガティブとポジティブについて説明したいと思います。ポジティブとは、写真のポジからきている言葉で、なんでもプラスにとらえようとすることです。逆にネガティブとは、写真のネガフィルムからきている言葉で、なんでも逆さ(マイナス)にとらえようとする言葉からきています。
 そして潜在意識には、ネガティブな意識のもとにはネガティブなスイッチが押されてしまうし、ポジティブな意識のもとには、ポジティブなスイッチが押されてしまいます。それが潜在意識の恐ろしいところです。
 成功した人間に対して、嫉妬心をもち中傷する気持ちをもってしまうと、そのネガティブな心理が自分の潜在意識にうえつけられてしまい、自分に対して不幸をよぶシステムが働いてしまう。例えば、他人に対して
「失敗しろ、失敗しろ」
と念ずると、自分に失敗しろという潜在意識がうえつけられてしまい、イザという時に自分が失敗するような体のシステムを作ってしまうのです。
 逆に言えば、他人に対して
「成功しろ、成功しろ」
と念ずると、自分に対して成功しろという潜在意識がうえつけられることになります。他人を祝福する気持ちが自分を祝福することになり、他人を妬む気持ちが自分を不幸にするような潜在意識の働きかけがおきる。ここが重要なポイントです。

 しかし、日常という世界の中にいると、そういうポジティブな発想をもちにくいものです。日常の歯車の中で、出世競争をしていると、どうしてもネガティブな発想に傾いてしまい
「失敗しろ、失敗しろ」
と念じてしまう。そして、どんどんネガティブな潜在意識に操られてしまうようになり、何をやっても失敗するようなシステムが心の中にできあがり、人を妬み、人をうらやみ、人を蔑むようになります。そして、それがますます潜在意識の中にネガティブな発想をうえつけるようになるのです。

 まさに悪循環。
 では、この悪循環を断ち切るために、
 どうしたら良いのでしょうか?

 それについては、嫉妬心を断ち切るのが一番です。けれど、容易に断ち切れないのは、そこに利害関係があるからです。逆に言えば利害関係から超越できる位置に自分をもっていけばいいわけです。例えば
「隣の家に蔵が建つと、うちでは腹が立つ」
と言うことわざがありますが、いつも隣の家に暮らしていて、そこから一歩も出ていかないから「腹が立つ」のであって、年中旅行ばかりしていれば、隣の家に蔵が建っても、腹が立つどころか、蔵が建ったことさえ気がつきません。それどころか建てられた蔵に対して素直に祝福できる可能性が高いものです。

 ようするに嫉妬心というものは、狭いところに閉じこめられ、同一の価値観を押しつけられ、歯車のような日常生活を続けるからこそおこりうるのであって、広い世界にポツンと旅する旅人にはおこりにくい感情です。
 何ヶ月もの長い旅をすれば、嫉妬心はおこりようがありません。例えば、フランスに行ってフランス人に嫉妬するとか、アフリカの奥地に行って、アフリカ人に嫉妬するということは、おこりにくいものです。つまり自分の価値観と違えば違うほど嫉妬心は発生しにくいのです。嫉妬するのは、同一価値観のもとで同一の競争が行われているからおきるのであって、異文化の中では嫉妬などおこりようがない。むしろカルチャーショックをうけて、感心することの方が多いものです。
 つまり、ネガティブな感情が発生するもとは、狭い世界に閉じこもっていることが原因であることが多いのです。その閉塞感が嫉妬心とマイナスの感情をおこし、潜在意識に不幸を呼び込むスイッチを押すようになるのです。だから、不幸を呼び込むスイッチを棄てて、幸福を手に入れるためのスイッチを押すためには、見聞を広め、現実社会から日常世界から幽体離脱するようにして、ポジティブな姿勢で世の中を見つめていかなければなりません。
【風のひとりごと】
(季刊『風のたより』36号掲載文・2001)

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