北軽井沢ブルーベリーYGHの世界 登山記録武甲山に行く!―大江戸登山網―
武甲山登山隊、心得の条我が荷物、我が物だけと思わず 食い物の費、あくまで安く 己れの器量を伏せ、 御亀(ゴカメーと発音してください)、いかにても尊ぶべし 尚、死して屍、拾うものなし。 死して屍、拾うものなし。 時は平成6年4月10日。関東は西武線沿線の某所にて、悪徳登山奉行と悪徳商人秩父屋が密会していた。 「秩父セメント屋、お主も悪じゃのう」 「そういう御役人様も」 「フッフッフッフ」 「ほっほっほっほ」 その時、ふすまが開いた。 「何奴だ!」 「武甲山登山隊、風の佐藤!」 「同じく、ゴカメーの亀!」 「同じく、大ボケの栗原!」 「同じく、いってらっしゃいのK!」 「同じく、あまり日曜日に休めない西山友昇!」 「くせものじゃ、でやえ、でやえ!」 というわけで、私たちは、なんと武甲山に登る事になりました。 この山は、登山禁止の山です。なぜならば、秩父セメントが武甲山のいたるところにダイナマイト(発破)を仕掛け、山を破壊し、山を削りとる作業をしているからです。つまり、武甲山は、とても危険な山なのです! と仲間たちに、武甲山に登る直前に隊員たちに説明した私でした。すると隊員たちの顔はリトマス紙のように真っ青に変っていきました。どうやら今日の登山隊の顔は、アルカリ性のようです。そうそうアルカリ性といえば、武甲山は、山全体が石灰岩の塊です。 その石灰岩を秩父セメントという会社が採掘した結果、ここ十数年で標高が百メートルも下がってしまうという結果になりました。このままいけば、百年もすれば武甲山そのものが無くなってしまう・・・・。武甲山という山は、そういう山なのです。 隊員の一人がいいました。 「マジでヤバイんじゃないですか? ダイナマイト(発破)が爆発したらどうするんですか?」 「死して屍(しかばね)、拾うものなし!」 今回の私たちは最初からハイです。登山口には、さっそく『発破(はっぱ)作業中につき、落石または、飛び石に注意』の看板がありました。この看板をムザムザ捨て置く私たちではありません。さっそく記念撮影。もちろん、葉っぱ(はっぱ)を持ってカメラをカシャリ! 歌も歌いました。歌はアニメ『タイムボカン』のエンディングテーマ曲です。 ♪好きなもの、好きなもの、ダイナマイト〜♪ CMパットサイデリアの歌も歌いました。 ♪ハッパ、武甲山〜、ハッパ、武甲山〜 大好きな山だから、登らずにられない〜 いつまでも、このままの山でいて欲しい〜 ハッパ、武甲山〜、ハッパ、武甲山〜♪ 時々、ダイナマイト(発破)の爆発する音が聞えますから、笑ってしまいます。さらに、緊急非難用シェルターまで、あちこちにありますから大笑い! 「死して屍、拾うものなし!」 頭の中に、この言葉がチラチラと見え隠れします。しかし、武甲山は笑える山です。おいしい山です。登山には、笑える看板が、いくつもありました。 「頂上まで、あと少し。でも・・・・」とか、 「頂上まで、もうちょっと、あと3日3晩で着きます」とか、 「山にゴミを捨てないでね、恋人も捨てないでね!」 にいたるまで大笑いの看板攻撃! 頂上まで、3時間。はらはらドキドキしながら頂上にたどりついた私たちは、よよよい攻撃! 頂上にいた他の登山客たちの目は、点になっていました。 このあと、私たちは食事をしたわけですが、他の登山たちは、私たちをジロジロ見ながら「よよよい」の真似事をして笑っていました。よほど変な奴に見えたのでしょう。 しかし、変な奴は私たちだけではありませんでした。なんと武甲山の頂上でテンプラを料理して食べている人がいたのです! テンプラですよ! テンプラ! 皆さん驚いてください。山の頂上で、ダイナマイト(発破)の音を聞きながら、テンプラを食べるなんて聞いた事がないじゃないですか! なんて大胆な、なんて風流な、 なんてみやびな! 私たちの心の中のつぶやきをいえば、 「ま、負けた・・・・」 につきます。 「佐藤さん、俺たちも何か、人のどぎもを抜くような、料理を山でやろうよ!」 「そうだなあ」 「う〜ん」 「日本アルプスの頂上でタコ焼をやろうか?」 「懐石料理を食べるってのは?」 「ピザを焼こう!」 「オーブンはどうするんだよ!」 「もちろん、担いで持って行く」 「電源は?」 「もちろん、簡易発電機を担いでもって行く」 「じゃあ、電子レンジも持って行こう、富士山の頂上でレンジでチンするんだよ!」 「フッフッフッフ・・・・」 「何だよ、佐藤さん」 「気持ち悪いなあ、佐藤さんは」 「君たちは、そんなチッポケな事しか考えつかんのかね!」 「?」 「どうせやるなら、もっとでかいことをやろう!」 「でかいことって?」 「富士山の頂上から、海抜0メートルまで、流しそうめんを流すん じゃ!」 「・・・・」 だれも相手にしてくれなかった・・・・。 布告!
それから頂上。頂上から眺めた景色に、私たちは絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句。絶句・・・・。なにしろ山の半分が削られているのです。大自然の驚異、いや違った、自然破壊の驚異も、ここまでくると、感動的でさえあります。 武甲山。 一度でいいから登ってみて欲しい! この山は、数十年前には、緑の山でした。その石灰岩質の山は、石灰岩質でないと咲かぬ花の花畑が、あたり一面に咲き乱れていました。秋には紅葉がきれいに燃えていました。信仰登山に大勢の登山客が、あちこちの登山道から頂上を目指していました。それが、悪徳商人秩父セメント屋が、悪徳登山奉行どもと結託して、なんと、山半分を十数年で削ってしまったのです! ああ、恐ろしや、恐ろしや・・・・。 「ゆ、許せん!」 私たちは、決意しました。憎っくき秩父セメントに斬り込みをかけることを! しかし、いざ斬り込みをかけると、その秩父セメント工場が、いかにもでかくてすごいのです。 「す、すごい!」 単細胞な私たちは、そのでかい秩父セメントの工場と、みごとにえぐられた武甲山の姿に、またまた感動してしまったのです! 夕焼けがえぐられた武甲山を赤く染めていて、それは美しい風景でした。めでたし、めでたし・・・・と、いつもなら、ここでエンドマークを書くのですが、今回は、解散模様を書いてみましょう。 私たちは、たいてい電車で帰ります。当然、酒宴の電車帰りとなります。ビール、日本酒、梅酒、チューハイ、それぞれ好みの酒と、秩父団子、秩父餅、胡桃の缶詰、渇き物、干物、ポテトチップス等の肴をゴッソリと買い求め、喰うは、飲むは、騒ぐは、吠えるは、怒るは、笑うは、私たちが企画するツアーの帰りは、だいたいこんなものです。それにしても怪しいツアーだったなあ。 【風のひとりごと】 (旧「風のたより」16号掲載文・1994) |
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