北軽井沢ブルーベリーYGHの世界 登山記録

浅間山に行く! 2

 私たちは、灯りを消しました。
 夜空には星が輝いていました。
 その星灯りに、浅間の森は、草木の葉を輝かせ、
 まるで、私たちに何か語りかけているようです。
 そんな森の中で、ウエピイは静かに語りかけました・・・・。
 それを学園ドラマ風に書いてみれば、こうなります。

「俺、あることを決意した」
「あることって何ですか?」
「実は、俺は2〜3年以内に、百名山、全部に登るつもりだ」
「えっ?」
「今から3年前、俺は佐藤さんと一緒に、摩周岳に登った。覚えてるか?」
「忘れるはずがないじゃないですか、先生!」
「そのとき以来、俺は、すっかり山にとりつかれてしまった・・・・」
「・・・・」
「俺は、登った山々の頂上で写真を撮ってる。いずれ、百名山の頂上の写真を集めて、アルバムをつくるつもりだ」
「先生・・・・」
「そして、その百名山のアルバムの第1ページは、佐藤さんと登った摩周岳にする。摩周岳は百名山じゃないけど、思い出の摩周岳を記念すべき第1ページにする」
「(感動しながら)う、上原先生・・・・。よし、上原先生が百名山を征服し終えるときは、みんなで盛大な御祝いをしよう! がんばってください、上原先生!」


 翌日、浅間山にむかった私たちの前には、素晴らしい紅葉が、待っていました。岩場にはえた数々の木々。何百年の風雪に耐えた枝には、赤々と燃える葉が、サワサワと揺れています。こんな時、私たちのとる行動は道草です。私たちのめざす登山は、あくまでもスポーツとしての登山ではなく、旅としての登山です。写真を撮る者もいれば、ビデオを撮る者もあり、歌う者もいれば、昼寝をする者もあり・・・・。

 浅間山の山麓は、真紅と黄金に輝く森が生い茂っています。そして、その森の中からは、何千年の風雪に耐えた奇岩が、あちこちから顔を見せています。それは、まるで天然色の山水図を見ているようです。
 私たちは、夢の森を進みました。真紅と黄金の森を歩きました。雲1つない、青い空からは、透明な、とても透明な、スポットライトを、真紅と黄金の森に照らしていました。森たちは、そんなスポットライトに応えるかのように、サワサワと輝いてくれます。ひょっとしたら、ここは夢の世界かもしれない・・・・。
 夢のような森を通り過ぎた私たちは、草原に出会いました。黄金に輝く草原に出会いました。左手に黒斑岳、右手に浅間山が見える、みごとな草原でした。その光景に目の覚める思いを感じたのは私だけではなかったはずです。さっきまで見ていた森が夢ならば、今みている草原は、素晴らしい幻かもしれません。

 私たちが、また、再び浅間山に訪れる時、浅間山は同じ姿で待っててくれるだろうか? いや、待っててくれないに違いない! 私たちが、再び浅間山を訪れた時、こんなに青い空が、また浅間山をつつんでくれるだろうか? 私たちが、再び浅間山を訪れた時、こんなに透き通った空気が浅間山をつつんでくれるだろうか? 私たちが、再び浅間山を訪れた時、こんなに透明な太陽の光が、浅間山を照らしてくれるだろうか?

 この素晴らしい浅間山の自然は、ものすごい偶然が積み重なってできた、夢幻(ゆめまぼろし)の世界なんだ・・・・。そう思うと、私は、浅間山の山頂を目指す事が、なんだかすごく、もったいないように思えてきました。この夢と幻の世界で、昼食を食べ、昼寝をすることが、なんだか、とても贅沢なことのように思えてきました。

「ここで別れよう!」

 私たちは、山頂アタック隊と、昼寝隊(昼寝たい)に別れました。昼寝隊の隊長は、ウエピイとU君。きっとギターをひきながら御昼寝してたにちがいありません。山頂アタック隊は、私(佐藤)以下7人。

 浅間山は、火山性の山です。したがって頂上付近は火山灰と火山弾が、ゴロゴロしています。そして大島の三原山にそっくりです。だから砂地の多い登山道は、とても登りにくかったものですが、眺めは抜群でした。
 眼下に望む鬼押しだし。そして、遥かに見える北アルプス、中央アルプス、蓼科、八ヶ岳等の山々には、地球の丸さを感じさせるほどの広大さがありました。そして浅間山の頂上。
 ああ浅間山には、こんなにもすごい火口があったのか。あの三原山の火口と同じだ! 地球の息吹が湧き出ている・・・・。真紅と黄金の森に囲まれた浅間山は、怒れる大地の夢のあとのようです。
 私たちは、無我夢中になって、山頂を走りました。土井君はキーボードをひきはじめ、栗原さんは火口にさかんに石を投げていました。S君は岩を調べており、M君はビデオを撮っていました。Tさんも、Hさんも何か夢中になっていたようですが、私の目には入りませんでした。それほど、浅間山の火口はすごかったのです。
【風のひとりごと】
(旧「風のたより」10号掲載文・1993)

注意/現在、浅間山頂は登山禁止になっています。

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