北軽井沢ブルーベリーYGHの世界 登山記録

官ノ倉山に行く!

 私たちのハイキングは、とてもいいかげんです。そのいかげんさが、私たちのパーティの魅力でもあるのですが、今回のツアーは、まさしくいいかげん。いいかげんにせいよといいたくなるくらい、いいかげんでした。
 まずは、例のごとく、池袋東口に集合した時点で、どこに行くのかが決っていませんでした。多数決で、東武東上線沿いの官ノ倉山に行くことにしましたが、途中で、

「○○さんと●●さんがいない!」

ことに気がつきました。幸い、途中で合流できましたが、東武竹沢で下りた時、もう一つ、とんでもない事に気がつきました。

「水が無い!」

 今回はスープを作り、ピーチフィズ(水割り)を飲む予定なのに、20人で運べる水の量が6リットルだけなのです。窮余の策として、駅前でペットボトルを買い、無理やりみんなで、空にしましたが、それでも水は足りません。
 読者の皆さん! 困り果てた私たちは、いったいどういう行動を取ったと思いますか? なんと、私たちは、巨大な鍋に水を入れ、それを山の頂上まで両手に持って運んだのです!

 星の数ほどある山岳会の数々。
 そしてハイキングサークルの数々。
 どこを探したって、鍋に水を入れてそれを両手で抱えながら登山した大馬鹿野郎はいません。そんな奴は、いったいどこにいるのだ?
 登山史上始って以来の快挙!
 前代未聞のできごと!
 こんな事をやるのは私たちぐらいしかいません。それが証拠に、すれちがう登山客たちは、全員笑っています。無理もありません。水の入った巨大な鍋(15リットル位)を抱えて登山する人なんて、めったやたらに見ることなどないでしょうからね。
 それにしても水を入れた鍋は、とても重い(15キロくらい)です。はじめは平気でも、しばらく持っていると腕がしびれてきます。私たちは、これを五分ごとに、交代しながら運んだのですが、これだけ苦労して運んだ巨大な鍋を、もしだれかが落として水を全部こぼしたりしたら、その人は生きて帰れなくなるに違いありません。

 やっとのことで、頂上に着いた私たちは、この憎くき鍋の奴に、エイ、ヤッ! と野菜をぶちこみました。これでもか! これでもか!と、ぶちこみました。

「鍋のくせに俺たちに迷惑かけやがって!」
「鍋のくせに生意気だぞ!」
「鍋のくせに重たすぎるぞ!」
「今から今からおまえを料理してやる! へっへっへ、ざまあみやがれってんだ」
「なかなか沸騰しないな、往生ぎわが悪い鍋だ!」

 しかし、さすがに料理が出来上がってくると、私たちの心は、だんだんと晴れ晴れとしてきました。

「フッフッフッフ、かわゆい鍋よのう、越後屋」
「本当に、めんこい鍋ですなあ、御代官様」
「それでは、味見をするかのう、フッフッフッフ」
「そうですなあ、ヘッヘッヘッヘ」

 食った食った、死ぬほど食った。
 そして、飲んだ飲んだ、死ぬほど酒を飲んだ!
 さすがの巨大鍋も、すっからかんになりました。

 その時です!
 だれかのザックの中から、水の入ったペットボトルが、
 ザックザックと大量に出てきたのです。

 目が点。
 水はあったではないか!
 俺たちはいったい何をしてたんだろう?
 あの重たい鍋は、いったい何だったんだろうか・・・?

 私たちのハイキングの昼食メニューは、たいてい鍋です。これだと参加人数の変更に対応しやすいからです。ちなみに、毎回どんなメニューを食べているかといいますと、たこやきのコンソメスープ、餃子のコンソメスープ、シューマイのコンソメスープ、ロールキャベツ、ミートボール、おこのみ焼、餅のコンソメスープ、巨大ハムのシチュウ、野菜のごった煮、キリタンポのスープ、豪快ラーメン、シューマイとキムチのラーメン、コンソメ野菜うどん。ざっとこんなものです。

 それから最後に、もう一つドッカーンと大事件発生! 小川町駅の駅前で、血だるまになって倒れている御老人を見つけてしまったのです。義を見てせざるは勇なき也! こんな場合は、真っ先に対応します。
 私たちは、御老人を助け起こし、介抱し、交番までつれて行きました。御老人は、いたく喜んでいました。何度も何度も土下座をしようとしたのをあわてて抑えた私たちです。
【風のひとりごと】
(旧「風のたより」16号掲載文・1994)

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