北軽井沢ブルーベリーYGHの世界 登山記録

鷹ノ巣山に行く!

「なぜ、あなたは山に登るのですか?」

という質問にみんなが答えて曰く、

「そこに酒があるから(下薗修司君)」
「そこで昼寝をするから(隊員たち一同)」
「そこで飯を食うから(隊員たち一同)」
「そこでオカリナを吹くから(風)」
「そこでダジャレをいうから(Kさん)」

 というわけで(いったいどういうわけなんだ!)、今回の攻撃目標は鷹ノ巣山です。実は鷹ノ巣山は、とても素晴らしい山です。何故ならば、気持ちのよい草原歩きを楽しめるからです。
 山に登ってて、どういう点にガッカリさせられる場合が多いかといえば、それはもう百パーセント、景色が見えないことでしょう。つまり、森林が邪魔してて、見たい景色が見えない時です。でも、鷹ノ巣山は違います。鷹ノ巣山の頂上から奥多摩駅にわたる縦走路は、ほとんどが草原です。しかも、眺めが良く気持ちのいい草原歩きなのです。

 しかし、そんな素晴らしい鷹ノ巣山登山にも落とし穴がありました。Kさんのダジャレ攻撃です。
 世界で一番恐ろしい攻撃。
 それはKさんのダジャレ攻撃です。どんなに健脚な山男も、どんなにたくましいスポーツマンも、Kさんのダジャレ攻撃にあえば、一挙にヘナヘナと体力を消耗してしまいます。そこで私たちは、ダジャレの王様の称号を与え、『ダジャレ王』という金印を授けることにしました。こんなことをいうとNさんが、

「王様がいっぱいいるのね」
「ツアーに来るたびに、王様が増えているのはどうして?」

という質問をしてきますが、う〜ん、そういえば、ずいぶんたくさんの王様がいるなあ〜。セクハラ大魔王・激論大魔王・大ボケ大王・大食い大王・早食い大王・酒飲み大王・変身大王・ダジャレ大王。数え上げたらきりがないです。私たちは、これらの王様たち全てに金印を授け、柵封を許すことにしました。
 そうそうそう。
 王様といえば、兵士(軍隊)がつきものですが、私たちのグループにはたくさんの軍隊がいます。例えば『地球ボーケー軍』です。もちろん地球防衛軍ではないですよ。地球ボーケー軍です。大ボケのかたまりで組織されているから地球ボーケー軍なのです。もし、宇宙人が攻めてきたら大ボケをかまして宇宙人を笑い殺してしまう。これが、地球ボーケー軍です。
 この他に富士山で冷やしそう面流し隊、アルプスでタコ焼食べ隊、八ヶ岳でビヤガーデンやり隊、槍ヶ岳で星を見隊、谷川岳で居酒屋やり隊、温泉入り隊、音楽隊などがあります。おっと、だいぶ話がそれてしまいましたね。

 鷹ノ巣山の頂上についた私たちは、さっそく昼飯にすることにしました。

「ビール飲みたい人は、手をあげて!」
「はーい!」
「えーと、1、2、3、4・・・・あれ? 人数が多いぞ?」

 なんとなんと、手をあげていたのは私たちのパーティだけではなかったのです。頂上で食事をしていた大勢の他の登山客たちが手をあげていたのです。

「ワイン飲みたい人!」
「はーい!」

 うっ。また数が増えている。

「チューハイ飲みたい人!」
「はーい!」

 また、人数が増えたぞ、こん畜生!

「日本酒飲みたい人!」
「はーい!」
「カリン酒飲みたい人!」
「はーい!」

 あがるは、あがるは、鷹ノ巣山の頂上は、手をあげる人でいっぱいに。どのパーティの皆さんも、お酒が飲みたくて仕方がないんですねえ〜。でも、鷹ノ巣山の頂上で冷たいビールを飲むには、何日も前からビールやワインを凍らせて準備しなければなりません。しかも、それをかついで鷹ノ巣山の頂上まで登らなければならないのです。20キロにもなる重いザックを背負い、頂上にアタックしなければならないのです。

 辛いと思うでしょ?
 しんどいと思うでしょ?
 苦しいと思うでしょ?
 ところがどっこい、それが全然違うんだなあ〜。

 ビールが一番おいしい時って、どんな時ですか?
 体がクタクタになって、喉がカラカラになって、
 いい汗をかいた時ではないですか?

 冷たいビールとおいしい御馳走をかついで山に登る時、私は、背中の荷物が重ければ重いほど嬉しくなってきます。そして、肉体が疲れれば疲れるほど、頂上が楽しみになってきます。お腹がペコペコになればなるほど、昼御飯が楽しみになってきます。だから私たちは、どんな山にも、ものすごい御酒と料理をかついで行くのです。
 鷹ノ巣山に広げた酒の数々。
 そして、豪華な料理の数々。
 それらはどの登山客の目もうらやましがらせるものでしたが、実は、それらの酒と料理は、私たちにとっては、見た目以上にすごい料理でした。何故ならば、私たちは、それらの料理を自分で買い出しにいって、下作りをしておいて、なおかつ運んできたのですから。そして、これらの料理は、これらのお酒は、いくらお金をだしても絶対に買えはしないのです。

 そういう意味では、私たちのパーティの中で一番おいしい思いをしているのは私かもしれません。何故ならば、私がメニューを決めて、私が買い出しに行って、私の背負ったザックが一番重く、一番疲労の大きいのが私だからです。だから、私が鷹ノ巣山で飲むビールの味は、だれが飲むビールの味よりおいしいと私は信じています。
 これはグルメとは違います。私にはビールの味はわかりませんし、食通でもありません。でも私は、どんなにおいしくない食べ物も、世界で一番おいしくいただけます。山にかついで持って行くことによって、ものすごくおいしくいただけます。おいしく御飯を食べたい。おいしく酒を飲みたい。だから私たちのパーティでは、だれよりも重い荷物をかついでしまう私なのです。

 話はそれますが、実は私は酒に弱いです。こういうと以外に思われるかもしれませんが、私の酒量は、缶ビール1本が限界です。でも、私は仲間内の中でも1〜2位を争う酒好きです。酒に弱いけど酒好き。これは矛盾しているようで矛盾していません。酒に弱くても酒好きな人間はいるものなのです。世の中では

酒に強い=酒好き
酒に弱い=酒嫌い

というイメージが存在していますが、断じてそんなことはありません。このさいだから、はっきりいっておきますが、『アルコール中毒=酒好き』という図式は絶対に認めたくありません。私が思うに、アルコール中毒の人は、酒が嫌いなんだと思っています。何故ならば、アルコール中毒の人は、アルコールであれば何でもよいのであって、居酒屋で飲む酒も、自宅で飲む酒も、山の頂上で飲む酒も、同じにしか思っていないからです。
 はっきりいって、山で大勢で飲む冷たいビールの味は、自宅で一人淋しく飲むビールの味の千倍うまいです。だから、ふだんビールなど飲まない私だって、山に行った時は死ぬほど飲みます。死ぬほどといっても、缶ビール1〜2本にすぎませんが、私にとっては死ぬほどの分量です。でも、自宅にいる時は、ひとくちのビールもまずくて飲めないものです。

 私はあまりアルコールに強い体質ではありません。だから基本的に酒には弱いです。でも、酒は好きです。アルコールには弱いですけど、酒は大好きです。飲めないけど好きなのです。どういうわけか酒が好きなのです。だから、一杯の酒を死ぬほどおいしく飲みたいという欲求が強いのです。どうせ一杯しか飲めない酒だから、おもいっきりおいしく飲みたいのです。それも、大勢の仲間たちと一緒に、楽しく飲みたいのです。できれば、素晴らしい山の頂上で、小鳥のさえずりを聞きながら、あたり一面の風景を眺めながら、おいしく酒を飲みたいのです!
 居酒屋でくだをまいている人や、ヘベレケになって吐いてる人や、女性にセクハラしているオヤジを見るたびに思うことは、「この人たちは酒を愛してないんだな」という思いです。こういう人たちは、アルコールの中に逃げている人たちであって、決して酒が好きな人ではないんだと思っています。おっと、だいぶ話がそれましたね。

 鷹ノ巣山の頂上で大酒を飲み、御馳走をたいらげた私たちのすることは、当然のことながら昼寝です。最近の私たちは、頂上に3時間以上いることが多く、そのほとんどが昼寝時間で終わっています。もちろん、今回の鷹ノ巣山も昼寝三昧。第一、食うだけ食って飲むだけ飲んでしまったため、動きたくとも動けないのです。
「ふぁ〜っ、眠い眠い」
てんで、爆睡した私たちでしたが、3時間の昼寝から目覚めた時の私たちの驚きといったらありません! 頂上にだれもいなくなっていたからです。50名くらいごったがえしていた登山客たちが、だれもいなくなってしまっていたのです。

「もう3時だぞ、どうする?」
「すぐさま下山しようか?」
「いや、待て待て、日没までまだ4時間もある。予定通り奥多摩駅まで縦走しよう! だって、鷹ノ巣山から奥多摩駅までの縦走路は、とても気持ちのいい草原歩きなんだぜ。これを逃す手はないよ。夕日を見ながら草原歩きを楽しもうよ」
「そうだな」

 その結果、私たちにどんな運命が待っていたのか? 文章にするのはやめておきましょう。だって、あんなに素晴らしい草原歩きを、文字にすることなんて私には出来ないです。これは行った人だけの秘密にしておきます。どんなに素晴らしいところかは、いつか皆さんの目で確かめてみてください。来年の秋頃には、もう一度チャレンジします。
 人のいない草原。それはまるで『木枯し文次郎』か『西部劇』に出てくるような草原でした。私たちは、その草原を風に揺られながら歩いたのです。夕日に照された草花は、キラキラと輝いていました。ああ、夢のようだ。
【風のひとりごと】
(旧「風のたより」17号掲載文・1994)

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